奈良に長く住んでいます。
それなのに、若草山に登ったのは、この日が初めてでした。

地元の人間ほど、地元を見ていません。「いつでも行ける」と思っているうちに、何十年も経ちます。
🔴 そのきっかけが、GoToトラベルでした。
キャンペーンがなければ、たぶん一生泊まらなかったであろう宿に泊まりました。春日山原始林の中にある「月日亭(つきひてい)」という旅館です。
この記事は、その1泊2日の記録です。
若草山に登りました|奈良県民なのに、初めてでした
まず、宿に入る前に若草山へ。
若草山は、奈良公園の東にある芝生の山です。3段になっていて、下から一重目・二重目・三重目と呼ばれます。
写真は一重目から撮ったものです。ここまでで、もう奈良盆地が見渡せます。
🔴 若草山の登山は、思っていたより本格的でした
正直に書きます。なめていました。
「奈良公園の隣の芝生の丘」という認識だったので、散歩の延長くらいに考えていたのです。実際に行くと、ちゃんとした登りです。
- 🔴 斜面がずっと続きます。階段ではなく、芝生の坂を登ります
- 一重目までで、そこそこ息が上がります
- 三重目(山頂)まで行くなら、それなりの覚悟が要ります
- 写真のとおり遮るものがありません。日差しがまともに当たります
そのかわり、登った分だけ景色が開けます。木がないので、振り返れば毎回ちがう眺めになります。これは階段の山にはない良さです。
🔴 スニーカーで行ってください。芝生なので、雨のあとは滑ります。
それと、入山料がかかります(数百円ほど)。開山期間も決まっていて、冬のあいだは閉まります。行く前に確かめてください。

斜面がそのまま町へ落ちていきます。建物が視界をさえぎらないので、奈良盆地のかたちがそのまま見えます。
若草山の駐車場と、鹿のこと
車で行く場合、若草山のふもとに駐車場があります。奈良公園周辺の駐車場を使って歩く手もありますが、シーズンの土日はどこも混みます。
もうひとつ、若草山ドライブウェイという道があって、これを使うと山頂近くまで車で上がれます。登るのがつらい方や、ご年配の方と一緒のときは、こちらが現実的です。

山の上にも鹿がいます。
🔴 奈良公園の鹿より、若草山の鹿のほうが人に慣れていません。近づいてこない代わりに、こちらもむやみに近づかないほうがいいです。
10月から11月は、雄鹿の発情期にあたります。角を落としていない雄は、気が立っていることがあります。地元では毎年、注意が呼びかけられます。
若草山の山焼きは、毎年1月です
若草山を調べると、必ず出てくるのが山焼きです。
🔴 毎年1月に、山全体へ火を入れます。花火も上がって、町のあちこちから見えます。奈良の冬の行事としては、いちばん大きなものです。
若草山の夜景は、ドライブウェイから
もうひとつが夜景です。新日本三大夜景のひとつに数えられています。
ただし、夜に歩いて登るわけではありません。夜景を見に行く方は、若草山ドライブウェイで山頂近くまで車で上がります。
🔴 正直に書くと、私はこの日、山焼きも夜景も見ていません。昼に登って、そのまま宿へ向かったからです。
ですので「夜景がきれいでした」とは書けません。ただ、同じ山でも、時期と時間でまったく別のものになるということは書いておきます。昼の若草山は、ひたすら芝生と鹿と眺めです。
春日山原始林の中の旅館|月日亭に泊まりました
若草山を下りて、宿へ。

これが宿の廊下です。窓の外は、全部が森。
🔴 ここは春日山原始林の中にあります。世界遺産「古都奈良の文化財」の構成資産のひとつが、この原始林です。
春日大社の奥にあたる場所で、近鉄奈良駅からは車で5分ほど。それだけの近さなのに、着いてしまえば町の音は何も聞こえません。
宿の由来を聞いて驚きました。明治36年に、奈良県知事の集会所として建てられたのだそうです。いまも県の迎賓館としても使われているとのことでした。
月日亭は奈良のどこにあるのか|春日奥山の月日亭です
正式には「奈良・春日奥山 月日亭」といいます。
近鉄奈良駅から車で5分ほど。町の中心からこれだけ近いのに、着いてしまえば森の中です。
🔴 ひとつ注意があります。同じ名前で、近鉄奈良駅前にお店があります。そちらは食事のお店で、旅館とは別です。予約のときに間違えないでください。

宿へ上がる道の途中に、この石柱が立っています。ここから先が世界遺産の森です。
春日山原始林は、ハイキングもできます
宿のまわりに広がっているのが春日山原始林です。
遊歩道が通っていて、歩いて回れます。世界遺産の中を歩ける、という珍しい場所です。
🔴 ただし本物の山です。散歩の靴では行かないほうがいいですし、日が暮れると真っ暗になります。私はこの日、宿のまわりを少し歩いただけでした。
🔴 部屋に、時計もテレビもありませんでした
これがいちばん驚いたところです。
部屋に時計がない。テレビもない。
最初は「不便だな」と思いました。ところが、しばらくすると気づきます。することが、風呂に入るか、食事をとるかしかない。
結局その晩、私は部屋にあった新聞を、隅から隅まで読みました。ふだんは見出しを眺めるだけの新聞です。読むものが、それしかなかったからです。
🔴 これは、好き嫌いがはっきり分かれると思います。
- 合う人 静かに過ごしたい/スマホから離れたい/会話をしたい
- 🔴 合わない人 夜にテレビを見たい/子どもが退屈する/時間を気にしたい
お子さん連れだと、正直きついかもしれません。逆に、夫婦ふたりで「何もしない時間」を買いに行くなら、これ以上ない環境です。
各部屋が離れになっていて、隣の音も聞こえません。貸切のお風呂もあります。

館内は、暖簾で仕切られています。奥へ行くほど静かになります。

🔴 談話室の真ん中に、囲炉裏が切ってあります。部屋にテレビが無いぶん、こういう場所があります。
奥の棚には奈良の本が並んでいました。「高野山」「大和路の四季」「法隆寺」といった背表紙が見えます。自由に手に取れます。

飲み物は、氷を張ったバケツで運ばれてきます。
🔴 お風呂は、ステンドグラスの入った木の浴槽でした
宿の話で、いちばん書いておきたいのがここです。

床は赤茶のタイル、浴槽は木です。大浴場ではありません。貸し切りで使う大きさだと思ってください。

🔴 壁にステンドグラスがはめてあります。温泉旅館の風呂で、これはあまり見ません。

浴槽です。ふたりで入るには、少し狭いくらいの大きさでした。

ふちにアメニティが並びます。右に見えているのは、すのこです。

🔴 朝に入ると、ステンドグラスの色がはっきり出ます。夜より朝のほうがきれいでした。ここは、朝風呂をおすすめします。
月日亭の夕食は、松茸から始まりました
10月の18日。季節の会席です。


🔴 お品書きが付きます。薄緑の和紙に筆書きで、こちらの名字まで入っていました。日付は令和2年10月18日、料理長は林 英成さんと書かれています。
この日の献立は、こうでした。
| 先付 | 菊花薯蕷羹 いくら |
| 吸物 | 土瓶蒸し 松茸 鱧 銀杏 三つ葉 |
| 造里 | 四種盛り |
| 彩八寸 | まなかつお柚庵焼き/唐墨大根/栗麩蜜煮/海老蓑揚げ/子持ち鮎甘露煮/小袖寿司/酢橘釜 玉小芋/鶏肝綿/丸十煎餅/菊花蕪/柿胡麻白酢掛け |
| 焚合せ | 南瓜まんじゅう |
| 強肴 | 大和牛朴葉焼き 大黒占地 紅葉人参 相葱 |
| 留肴 | サーモン生鮨市松巻 湯葉 奉連草 黄味酢 土佐酢 |
| 御飯 | 栗御飯 赤出汁 香の物 |
| 果物 | 越後姫 メロン ザクロ |
🔴 彩八寸だけで11種類あります。一皿に少しずつ載っているので、見た目ほどの量ではありません。

先付から始まります。

🔴 松茸の土瓶蒸し。ふたを開けた瞬間が、いちばんいい匂いです。先に汁を飲んでから、中身を食べます。
🔴 松茸の土瓶蒸し。
私にとって、その年の初松茸でした。蓋を開けたときの香りは、写真では伝わりません。
10月中旬から下旬というのは、ちょうど松茸が出る時期です。宿を選ぶときに献立まで見る方は少ないと思いますが、この時期の奈良の旅館は、松茸が入っていることがあります。

お造りです。菊の花が添えてあるのが、10月らしいところ。


焚合せは南瓜(かぼちゃ)まんじゅうでした。上に載っているのは紅葉の形に抜いた人参です。10月なので、紅葉。器が一皿ごとに変わります。

🔴 強肴は、大和牛の朴葉焼き。朴(ほお)の葉の上に肉を載せて、下から火を入れます。葉の匂いが肉に移ります。
一緒に載っているのは大黒占地(だいこくしめじ)、紅葉人参、相葱です。お品書きにそう書いてありました。

留肴はサーモンの生鮨市松巻。サーモンときゅうりを市松模様に組んであります。かかっているのは黄味酢、下は湯葉とほうれん草でした。

〆のご飯は栗御飯でした。赤出汁と香の物がつきます。
🔴 お品書きの最後に「お米は奈良県産こしひかりを使用しております」と書いてありました。

果物は越後姫(いちご)、メロン、ザクロ。これで終わりです。ここまでで、だいたい2時間かかりました。
八寸(はっすん)です。器まで菊の形をしています。
🔴 ひとつずつ、細工がしてあります。飾り切りをした野菜、小さく巻いたもの、串に刺したもの。手間のかかり方が、そのまま見えます。
こういう料理は、食べる前に眺める時間が要ります。テレビがない部屋というのは、そういう意味でも合っているのかもしれません。
朝ご飯も、きちんと出ます


膳の全景です。朝からこれだけ出ます。手前で火にかかっているのが、次の湯豆腐です。
翌朝7時半すぎの朝食です。土鍋、お重、小鉢がいくつか。


🔴 湯豆腐の出汁で、最後に雑炊を作ってくれます。これが朝ご飯の〆です。ここまで食べると、昼はいりません。
湯豆腐です。10月の朝は、山の中だと冷えます。温かいものが出るのは、ありがたいところでした。
翌朝、春日大社へ|早朝のお参りは気持ちがいい
宿が春日大社の奥にあるので、朝、そのまま歩いて行けます。

🔴 朱色の回廊に、人がいません。
奥のほうで、巫女さんが箒で掃除をしていました。それだけです。参拝の人も、観光の人もいません。
春日大社は、日中は人でいっぱいになります。修学旅行の列も入ります。同じ場所とは思えないくらい静かでした。
これは、近くに泊まった人だけの時間です。日帰りでは、まず来られません。

参道には鹿。朝の鹿は、まだ人に慣れる前という感じで、のんびりしています。
奈良の旅館でおすすめを選ぶなら|値段の幅で決まります
月日亭は、安い宿ではありません。
私が泊まれたのは、GoToトラベルで大きく補助が出たからです。そこは正直に書いておきます。
奈良・春日奥山 月日亭
世界遺産の原始林に佇む一軒宿。料理旅館として創業100年を超え、著名人も多く訪れた歴史ある宿。
- 最安 55,000円〜
- 評価 1.00(85件)
- 最寄 近鉄奈良
Supported by 楽天ウェブサービス(料金・空室情報は楽天トラベル提供。変更される場合があります)
ただ、払う値段に対して、返ってくるものははっきりしています。
- 世界遺産の原始林の中に泊まれる
- 離れなので、人の気配がない
- 季節の会席。10月なら松茸
- 🔴 翌朝、春日大社を独り占めできる
最後のひとつが、いちばん大きいと思っています。宿の値段には、翌朝の静けさが含まれているという考え方です。
奈良の高級旅館は、ほかにもあります
「そこまでの値段は出せない」という方のために、ほかも挙げておきます。
奈良ホテル
関西の迎賓館として1909年創業。伝統のおもてなしで心に残る旅を。
- 最安 17,640円〜
- 評価 4.67(1,735件)
- 最寄 近鉄奈良
- サービス4.73
- 立地4.65
- 部屋4.63
- 設備4.59
- 風呂4.46
- 食事4.80
Supported by 楽天ウェブサービス(料金・空室情報は楽天トラベル提供。変更される場合があります)
奈良ホテル。1909年(明治42年)創業のクラシックホテルです。若草山までは車で5分ほど。
🔴 私はここには泊まったことがありません。ただ、食事には行きました。創業110周年の記念ランチで、フォアグラがおいしかったのを覚えています。
値段の幅で3軒ならべたものは、奈良のコスモスの記事のほうに書きました。
🔴 地元の人間が、地元に泊まってみて思ったこと
最後に、いちばん書きたかったことを。
私は、この宿を「GoToトラベルでもなければ、絶対に行かなかった」と思っています。
理由は単純で、車で20分の場所に泊まる、という発想がなかったからです。旅行というのは遠くへ行くもので、近所は「いつでも行ける」ところ。そう思い込んでいました。
実際に泊まってみて、分かったことがあります。
- 🔴 「いつでも行ける」場所には、一生行かない。現に若草山は初めてでした
- 近いから、朝が使える。早朝の春日大社は、泊まった人だけのもの
- 移動時間がゼロに近いので、その分ぜんぶ滞在に回せます
- 荷物が少なくて済みます。忘れ物をしても、取りに帰れる距離

ちなみに帰り道は、クーポンを使い切るために回転寿司へ寄りました。前の晩に会席を食べた翌日の昼が、これです。
締まらない終わり方ですが、そういう旅でした。
お住まいの近くにも、「いつでも行けるから」で行っていない場所があると思います。そこに、一度泊まってみてください。遠くへ行くのとは、別の発見があります。
奈良・春日奥山 月日亭
世界遺産の原始林に佇む一軒宿。料理旅館として創業100年を超え、著名人も多く訪れた歴史ある宿。
- 最安 55,000円〜
- 評価 1.00(85件)
- 最寄 近鉄奈良
Supported by 楽天ウェブサービス(料金・空室情報は楽天トラベル提供。変更される場合があります)
※この記事は2020年10月に泊まったときの記録です。料金・献立・部屋の設備は変わることがあります。若草山の入山料や開山期間、春日大社の参拝時間もあわせて、お出かけの前に公式でご確認ください。




